歯科医師は長女のみ!60代院長の出口戦略をお話しします

「できれば、歯科医師の子供に医院を承継したい」と思いながら、親子ゆえにそのあたりの話は中々しずらく、前に進まない医院さんは多くあります。

また、お子さんが独身の娘さんであれば、なおさら不確定要素が大きくなり、院長には漠然とした不安ばかりが募りがちです。

そこで、ここでは31歳の歯科医師である娘さんを持つ60代の院長の相談から、漠然とした不安を解放し、どう導いたかについて記しました。

これから承継問題を控える院長向けの内容です。

歯科衛生士

子供への承継を望みながらも、先が見えない60代院長の迷い

開業して28年が経過する60代の院長の医院です。

5年前に移転拡張してユニットは7台になりその後、患者数もリコール数も順調に増え、売上も1億4千万円と移転前の2倍近くになりました。

医院は順調なのですが、院長の頭の痛い悩みは承継問題です。

というのは長女の娘さんが歯科医師で6年前に他医院から戻ってきて、手伝ってくれています。

今のところ独身で31歳、医院を継いでくれるのか否かも分かりません。

次女はアパレル会社に勤めており、歯科医院とは全く関係ない業界にいます。

長女の娘さんは今のところ、今後も勤務医で働くのが希望らしく、院長を務めたいと思うタイプでもありません。

60代の院長自身もまだ最低5年は働き、できれば10年くらいは診療に関わっていたいと考えています。

「理想は長女の歯科医師が結婚後、医院を承継してくれ、自分は徐々に診療数を減らしながら10年働く」というものですが当然、理想通りにいくかどうかは全く不透明です。

もちろん、医院の借金はあと数年で実質無借金になるため、それまでは責任を持って院長をするつもりですがその後、どうなるかの方向性が見えていません。

このような状況で、60代の院長からユメオカに相談がありました。

 

複数の出口戦略を持つことで漠然とした不安がなくなります。

一般に院長の出口戦略は次の5種類があります。

1)親族への承継

2)第三者への承継

3)売却(M&A)

4)清算

5)倒産

です。そして、この医院の理想は1)の親族承継ですが、ここは歯科医師のお子さんが女性でもあり、ご本人も承継したい意思を示しておらず、今のところ不確定要素が大きい状況です。

この1つの選択肢で、出口戦略を組み立てるのは無謀です。

そのため、他にどんな選択肢があるか? を院長に話を聞きながら、整理すると

2)第三者への承継があげられました。

承継候補の勤務医を入れて、その方を5年ぐらいかけて育成し、承継していく方法です。

そして3つ目の選択肢に3)売却(M&A)があります。

当初、この選択肢は院長にはありませんでした。というより「売却する」という意味が、院長にはよく分からなかったのです。これも普通のことです。そして、売却と聞いても

・大体、誰が買うのか?

・いくらぐらいで売れるのか?

・どうやって売却先を見つけるのか?

・第三者に売却して、本当に大丈夫か?

このように思うのも当然です。

しかし、1)親族への承継で不確定要素が大きい以上、3つ目の選択肢も考慮に入れながら、出口戦略をたてることで不安が減ります。

なぜなら、4)清算という形の医院閉鎖では、通い続けてくれる患者さんも困り、スタッフも働き口に困り、院長もそれらの心配が消えません。

そして、3)売却で、売却先さえ理念が合い、院長の要望を継続してくれるところを選べば、患者さんもスタッフも継続できます。

私がお伝えしたいことは、

・この3つの選択肢を想定しながらこれから5年を過ごすか?

・5年後に慌てて出口をつくるか?

では5年後に大きな違いが生まれるということです。

前者であれば3つの選択肢のどれになっても

・患者さんは継続して通い続けられ

・雇用継続を望むスタッフも安心でき、

・院長も一定の退職金を得て、診療も続けられる

ことになります。一方、後者であれば、

・患者さんは信頼できる医院探しが新たに必要になり

・スタッフも新たな職場を探すしかなく

・院長も清算で余ったお金しか受け取れない

となり、全く異なる出口になってしまいます。

医院売却の価格はどうやって決まるのか?

いずれにしても、医院の価値を高め続けておけば、売却時にも余裕ある退職金を院長は受け取れます。

せっかく院長は30年近くに渡って患者さんと信頼を築いてきたため、その功績を最後に報酬として受け取れるようにしておいた方がよいはずです。

それでは、医院価値(売却額)はどのように決まるか?

これ!という方程式があるわけではないのですが、一般的に年間「利益+院長報酬」の3~5倍くらいと考えていただくとよいと思います(借金が残れば、その分は差し引きます)。

例えば、院長報酬が年間で2,000万円、医院利益が1,000万円であれば、合計3,000万円です。その3~5倍は9,000万円~15,000万円になります。そして、

そんな価格で買える医院はあるのか?

が次にわく疑問でしょう。しかし、結論から言えば買いたい医院がありますし、これから多くでてくるでしょう。

それは例えば、グループ展開している医療法人だったり、医科歯科を展開するグループなどです。

彼らにとって3~5年で買収金額を回収できるので、資金さえ用意できれば買収したい医院は多くあるのです。

なぜなら、0から作れば初期投資を3~5年で回収するのは難しいため、グループ医院を増やしたい医院は買収した方がよいという判断は、合理的です。

また、これからは安心できる買収先が見つければ、新規開業よりも有利な融資をする金融機関も増えるでしょう。

そのため医院価値を高めるとは、リコールを中心とした口腔意識の高い来院者を集め、その方々のニーズに応えるような医院づくりを行い、診療とサービスの両面からしっかりと土台がある医院づくりをすることです。

それが結果として「院長報酬+利益」を高くし続けることにつながるからです。

医院売却も前提にして出口戦略の準備しておくこと

先ほど「医院売却も視野に入れて、医院価値を高めておきましょう」という話をしました。

そして、売却も選択肢の1つと想定した時、注意したいことがあります。

それは、院長依存が高い医院はどうしても価値が低くなってしまいます。

なぜなら、院長がいなくなったら「売上が激減する」「チームが回らない」では、買収する側も高く評価できないからです。

「売上が激減する」の代表的な要素は、自費率です。

つまり、院長の自費が高いと、院長がいなくなれば自費売上は激減しますね。

また「チームが回らない」は、院長が権限をすべて持っていて院長主導で動いている医院です。

これも院長不在になると主体的に動く人がいなくなり、自然に医院収支も悪くなりがちです。

冒頭の医院さんでは自費率は20%ぐらいで、院長はその中の半分も担当していないため、診療の院長依存は高くありません。

しかし、チーム運営はすべて院長主導で、チーフやマネージャーなどもおらず、院長が指示しないと動かない組織になっています。これは院長依存が高い状態と言えます。

このような場合、売却ではなく、1)親族への承継や2)第三者への承継といった選択肢になった場合でも、医院経営が傾く可能性が高いです。

そのため、この医院で今から行うこととして私が提案したのは

『チームによるマネジメント体制』

です。今まで院長1人で行ってきたことをすべて1人に任せるのは大変なので、3人ぐらいのチームで引継ぎ、権限移譲させていく方法です。それは例えば

・診療品質担当

・教育担当

・(院長とスタッフの間)調整担当

というように役割をわけて、それぞれの役割を担う3人がチームとなって運営をしていくのです。

スタッフ

これも5年という時間があれば、十分可能ですが、残り1年しかなければ、難しいでしょう。

そのため今、出口から逆算し、取り組むことを決めていくことは、出口が3つのどの選択肢になっても価値があることなのです。

このように親族承継が不確定という医院さんも、お子さんの動向だけをじっと待っているのではなく、出口に複数の選択肢をつくって準備しておきます。

そして、どれになっても大丈夫なように5年ぐらいかけて計画をつくることが結果、漠然とした不安をなくし、今に集中することができ、さらなる医院価値向上に寄与できるのです。

このようにお子さんの動向が不確定なら、複数の出口を前提に考えれば、安心できます。

1アクション
親族承継以外の出口の複数選択肢をつくる

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ABOUTこの記事をかいた人

丹羽 浩之

株式会社ユメオカ代表 丹羽浩之。 ユメオカとは「夢とお金の作戦会議」の略。 2004年に独立後、現在までに教材は30種類以上を開発し、全国3,000医院以上がユメオカ・ノウハウを活用し予防型経営に取り組んでいる。 そして全国8名の提携コンサルタントによるコンサルティング、【会員制】予防型経営★実践アカデミー、【会員制】歯科『採用★定着』実践ラボを主催している。 また予防歯科、予防医療の普及に最も精力を注いでいる。 座右の銘は「得意淡然、失意泰然」。