これは院長にとって、とても頭が痛い、胸が苦しくなるような問題です。
なぜなら歯科医師は求人難だし、歯科医師が1人抜けると最も大きな負担がくるのは、多くの場合は院長だからです。
しかし、「勤務医を一方的に指導する」スタイルをとってみても上手くいくものでもありません。
有効なアプローチは、「気づきを与える」です。
そこで、勤務医を育成する際の気づきを与えるアプローチについて記しました。
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週4日勤務で給料55万円の勤務医の働く実態です

某医院には週4日の勤務医である稲垣先生(仮名)がいます。
保険中心で診療していただいていますが、稲垣先生が行った先月の保険点数分は93,000点でした。
といっても予約票のアポイント枠が隙間だらけというわけでもありません。
確認してみると例えば、インレーの印象でも30分枠をしっかりもうけて行っていました。
その結果、アポイントも結構埋まっているのです。
このように採算性のないアポ枠の取り方をしているため、月間で93,000点分しか診療ができていなかったのです。
また、先月だけでなくその他の月も10万点前後です。
そして稲垣先生の給料は55万円で、売上は93万円です。
どう考えても給料に見合っていません。
本人はどこまで気づいているのか分かりませんが、これでは医院経営が成り立ちません。
もちろん、売上ありきで考えるのではなくしっかり診療をしていくことが最も大切です。
日ごろから院長自身もそれを勤務医に伝えているのですが、採算度外視の診療では医院がつぶれてしまいます。
この点については過去に一度、院長から稲垣先生に話したことありますが、本人は「分かりました、今後は気を付けます」という返事しかなく、意識は常にこの程度です。
どうしたら稲垣先生に分かってもらえるでしょうか。
まずは最悪のことも想定して、院長が覚悟を決めることからです

このような稲垣先生に
「保険点数が低いから、最低でも月に25万点分の診療ができるようにして欲しい」
と伝えても、稲垣先生にはほとんど響かないでしょう。
その根底には、
「しっかりとした治療を行うには時間はかかるもの、それを差し置いて売上と言われても、自分だって困ります」
といった意識があるためです。
そこで私は院長に尋ねました。
院長:もちろん、給料に見合った働きをして欲しいです。それに彼は2年後には開業も考えているようで、このままの意識では開業後に大変苦労することになると思います。診療や患者さんへの説明をしっかりと行うことも大事ですが、同時に経営感覚も持ってもらえるようにしたいです。
私:なるほど。では稲垣先生が仮に辞めてしまったらどうなりますか?
院長:新しい歯科医師を募集する必要がありますが、そう簡単に採用できるとも思えないですね。
私:稲垣先生が辞めてしまい、新しい歯科医師を雇えない期間はどう影響しそうですか?
院長:う~ん、実際には影響というほど影響はないかもしれません。現在でも月に93,000点しかないわけですし、パートのもう1人の歯科医師の先生に少し診療時間を増やしてもらえば、7~8割がたはカバーできるかもしれません。
私:もしそうなら、経営的には収支はプラスですね。保険点数30,000点程度の減少で稲垣先生の給料55万円が減るわけですしね。もちろん、予約が取りにくくなる患者さんには迷惑かかかることにはなりますが。
院長:考えてみればそうですね。
つまり最悪、稲垣先生が辞めてしまうことを院長は漠然と心配し、踏み込んだ話ができなかったわけです。
しかし、整理してみると、そうでもないことが分かりました。
であれば、ここは腹をくくって稲垣先生に「現状ではまずい」という意識をもってもらえるようにするしかありません。
もちろん、一方的な指導モードで伝えしても、これまでとそう変わりません。
そこで、気づきを与えるアプローチをとります。
指導ではなく数字を使って気づきをもたらすアプローチを行います

気づきを与えるアプローチとは、次の3ステップです。
「保険点数10万点前後で給料55万円」
2)医院運営上の基準について伝える
「給料に見合った保険点数についてです」
3)その上で工夫できることを一緒に考えます
「予約枠の入れ方、1日の患者数目安、自費診療枠など」
もう少し詳しく説明していきます。
これは院長が勤務医に対して、どのように気づきを与えるアプローチを行うかの例です。
「今日は今後の診療についての考えを共有しておきたいと思って時間をとってもらいました。
この6カ月、稲垣先生が行った診療の保険点数を確認したところ大体10万点前後でした。
もちろん、当院は売上が最も重要ではなく、診療の考え方・方法ありきです。
しかし、良質な診療を続けるための医院経営をしていく上で、売上も必要です。
10万点ということは売上に換算すると100万円です、稲垣先生の給料に対してこの売上は率直にどう思いますか?」
2)医院運営上の基準について伝える
「治療の収支については、これまで教えてもらったことは今までなかったかもしれないし、稲垣先生がこれから開業する時には必ず知っておかないと、大変苦労すると思うので、医院運営上の当院の基準、収支について共有させていただきますね。
まず、歯科治療の売上が100だとする材料費は20ぐらいになります。
そして、他にかかる経費は「人件費・設備・水道・家賃・広告」などの固定費です。
人件費は稲垣先生の分とアシスタントの分ですね。
100に対して稲垣先生(歯科医師)分は20ぐらい、アシスタントは8ぐらいです。
あと人件費には給料以外に社会保険負担や医院が出している福利厚生費などがあるので、その分が歯科医師5でアシスタント2ぐらい。
これらの合計が人件費になります。
つまり人件費は20+8+5+2で、35です。
あとは設備・水道・家賃・広告などの固定費が売上の30~35%くらい、つまり売上100なら30~35といったところです。
まとめると売上100に対して支出は、材料が20、人件費が35、その他固定費が30で、残りが利益にない15ぐらいです。
これが歯科治療の収支なのです。
稲垣先生の保険診療分は月間で10万点なので月間売上で100万円です。
経費を今の配分で当てはめるとどうでしょう、何か気づくことありますか?」
という感じに数字で列挙して、気づくことを確認してみます。
3)その上で工夫できることを一緒に考えます
「給料の4~5倍くらいの売上でやっと利益がでるということですね。
そのため給料55万円なら220~275万円になります。
つまり今の倍以上が本来、医院の安定成長のためには必要になってくるわけです。
そのうえでこれからどう改善したらいいかを一緒に考えていきたいと思います。
どんなことが考えられますか?」
このように3ステップで気づきを与えるアプローチをとり、対策を一緒に考えるところまで持っていきます。
ここまでで賞味1時間くらいです。
院長がこのように冷静に稲垣先生の意見を聞きながら進めれば、きっとうまくいくでしょう。
しかし、焦り過ぎてステップを飛ばしたり、感情が出し過ぎてしまうと上手くいきません(これが一番、難しい!)。
また、3)まで上手くいったとしても、これで終わりではありません。
しっかり定期的に基準値の確認や対策のフォローをし続けることで勤務医の方は意識が高まって、結果もついてくるようになります。
それが結果、医院にも良い影響をもたらし、稲垣先生が開業する時にも大きな助けになります。
「焦らず、一歩一歩、見守る気持ち」も持って、気づきを与えるアプローチをすることが大切です。
必要なら第三者に同席してもらったり、補足してもらったりするのもありでしょう。