歯科医院の平均売上は4,000万円強のため、年商1億円といえばその2倍以上になり、十分成功しているといっても過言ではないということでしょう。
成功をどう定義しているかにもよりますが、それが平均売上の2倍以上というのならそうでしょう。
しかし成功を「スタッフが長く働ける環境があり、患者さんが喜び、院長も次のビジョンを描く余裕が持てる」と定義すれば、「年商1億円 = 成功」はもはや幻想です。
この事実をこれから開業する歯科医師の先生達に知ってただいた上で、開業するか開業以外の道を選択するかを決断され、幸せな歯科医師ライフにつなげて頂きたいと願い、今回の記事を記述しました。
Contents
歯科医院の平均売上の実態と1億円医院の割合
「6千万円の壁は厚いが、1億円超が目標だ」
「1億円に到達したら今より楽になれるかな」
「勤務医を採用して1億円超えになると、もっと余裕が生まれるだろう」
このように頑張っている歯科の院長は多くいらっしゃると思います。
1億円医院の割合は歯科医師会などからも正確な統計は出てないのですが、ある程度の母集団がある統計によれば現在、1億円以上の割合は全歯科医院の8%程度だと言われています。
つまり13件に1件の割合です。

こう考えると1億円医院の割合は少ないし、それを目標とする院長が多いことは理解できます。
実際、、日本歯科医師会が2019年3月に発表しました「歯科医業経営実態調査の集計と分析」によると
平均値:4,000~4,500万円
中央値:3,500~4,000万円
最頻値:3,000~3,500万円
ということだそうです。また、中央値である売上層(3,500~4,000万円)の収支実態について「開業医の中央値である売上3,600万円で実際、勤務医時代よりも年収は増えるのか」でご紹介しました。
そして、上記の記事でもお伝えしましたように売上3,600万円医院の院長収入は、勤務医時代より大きく下回っています。
それでは、1億円医院の実態は、どうなのでしょうか。
1億円医院の収支を公開します
1億円医院とは月間売上にすると、850万円ぐらいです。
そこで月間850万円医院の一般的な歯科医院収支をここで公開してみたいと思います。
月間850万円といっても自費率やスタッフ数の違いから様々なため、収支を公開する前に典型的な月間850万円医院の【医院状況】と【スタッフ構成】を共有します。
・ユニット6台
・月間売上850万円(保険診療が650万円、自費診療が200万円<自費率24%>)
・月間診療日数は平均20日で、1日の保険売上は33万円
・診療単価6千円で保険だけで1日平均55人の来院数
【スタッフ構成】
・常勤は歯科医師2人(院長含む)、歯科衛生士2人、歯科助手2人
(院長給料は150万円で勤務医は給料50万円、歯科衛生士さんは給料26万円(+賞与分として月4万円)、歯科助手さんは給料22万円(+賞与として月2万円として計上)
・パートは歯科衛生士と歯科助手で合計4人
(給料はパート1人月額10万円として計上)

そしてこの医院の【医院収支】です。これはお金のブロックパズル(引用:和仁達也、日本キャッシュフロー協会)と呼ばれるものです。

(※)注意点があります。決算書ベースでの人件費は個人開業の場合、院長以外のスタッフのみの合計、医療法人だと院長を含めた合計となります。しかし、ここでは院長の個人収入と医院の利益を区別するため、後者の医療法人版として院長収入と医院利益を分けた形で表記します。
このお金のブロックパズルに月間850万円の医院収支を実際にあてはめてみます。

売上850万円に対して、医院利益136万円です。
固定費は<人件費>396万円、<その他の固定費>が166万円で、各々の内訳は以下の通りです。
・院長収入 150万円
・スタッフ給料 186万円(歯科衛生士@26万円、歯科助手@22万円、パート@10万円)
・賞与分月額 12万円(歯科衛生士@4万円、歯科助手@2万円)
・社会保険 38万円
・福利厚生費 10万円
<その他の固定費:166万円>
・家賃 50万円
・旅費 12万円
・消耗品・事務・水道光熱21万円
・通信・会費・保険・雑費 23万円
・修繕・保守リース 18万円
・広告・研修 31万円
・支払利息12万円(7000万円の借入残を年間2%の利率で返済の利息)
このように特に無駄遣いしているわけでもなく医院運営上、普通にかかっている経費ばかりです。
医院利益136万円から返済が50万円あると、残るお金は税引き前で86万円(136 - 50)になります。税引き前で86万円も医院に残しておく必要があるのか? と思われるかもしれません。
残るお金が毎月86万円だと年間で1,000万円程度です。
結論から言えば、この医院(チェア6台でスタッフ数も10人)の規模なら、これぐらいは残しておく必要があります。
なぜなら、医院運営していくと一時的な余剰人員なども必要になったり、勤務医や歯科衛生士の退職に伴う一時的な売上減のリスクなどにも対応できるようにするためです。
余裕ある経営をするためには院長収入150万円程度で、医院に86万円ぐらい残しておくと余剰人員も入れられ、将来の投資のためにお金を蓄積できることになります。
これから開業するなら1億円は最低ラインになる理由
このように1億円医院でも余剰人員1名追加や休暇を少し増やしてしまうと経営(利益確保)はギリギリぐらいです。
実際、1億円を達成している院長に聞いても「自分が成功していると思ったことはない」という院長がほとんどです。
その理由は上記のような、1億円収支でも決して余裕ではないためです。
そして実際に「有給休暇消化できるよう余剰人員の確保、スタッフ用の研修費の捻出、新たな福利厚生」といったことをしようとすると、1億円医院でも結構、厳しい状態です。
つまり医院経営において、売上(医業収入)1億円は最低ラインと考えられます。
そして今後は、上記の医院収支における支出が増える要素が増えてきます。収入が増えずに支出が増えればどうなるか? 私が言うまでもありません。支出が増えそうな要素とは次の通りです。
・求人難の時代背景から給料水準自体が上がってくる
・最低時給がさらに上がる
・社会保険料の負担率も上がる
【家賃負担】
・患者が集まらないリスクが高まり好立地の開業が普通に(家賃水準が高くなる)
【材料】
・金属をはじめ技工料、材料も上がる
【求人費用】
・歯科医師や歯科衛生士は一部の医院に集中し、他医院の1人採用までの求人費用が上がる
・歯科助手や受付も求人も難しくなり、1人採用までの求人費用が2~5倍に
以上が今後、支出が増えそうな要素です。

そのため、これまでは「自分は開業して儲けたいわけではないので、チェア3~4台でやっていければ十分」という歯科医師の先生も多くいました。
これからの開業は「儲けたい、儲けなくていい」ということではなく、小規模医院は安定的な経営をしていく上では益々難しくなっていくと予想されます。
しかし「自分はチェア1,2台でスタッフを雇っても1人程度で、自費中心に超小規模でやっていくから大丈夫」という院長もいらっしゃいます。
これまではそれも可能でしたが
・(沖縄県以外の)小児のう蝕が激減しているように治療は少なくなる
・予防や口腔内の安定維持治療の時代に入る
このような変化から「20年先を見て、超小規模医院をご自身の開業l地域で維持できるか?」をしっかり判断する必要があるのではないでしょうか。
また、スタッフ1~2人規模の医院は「求人も難しい」という現実を知っておいていただきたいです。
例えば、スタッフが自分以外にいない医院には、仮に応募があっても辞退する人が多いのは普通です。
そして繰り返します。
開業するなら1億円医院が最低ライン
これが当たり前になる時代が、もうスグそこまできています。
つまり、最低1億円規模の歯科医院をつくってそこから、スタッフの成長を愉しみながら患者さんの喜びを自分のエネルギーとしてさらに成長していこうと覚悟を持って開業する歯科医師の先生達にとっては、開業することは、幸せな歯科医師ライフにつながることでしょう。
また同時に、「自分には開業は合ってないので、開業以外の道の方が自分に合った生き方ができる」という方も多くいらっしゃると思うし、そういう生き方も「カッコイイ」と自尊心を保てる文化を歯科業界につくっていく必要があると私は考えています。
私は開業を否定しているわけではありません。このような事実を知らずに何となく(成り行きで)開業してしまい窮地に追い込まれ、自尊心もボロボロになってしまう歯科医師の先生を増やしたくない思いが強くあります。
補足:
これからも開業をどんどん推奨する人達がいます。
彼らの中には何の根拠もなく「先生なら開業しても成功しますよ、応援しますよ」と適当なことを平気で言ったりする人がいます。
とりわけ、設備関連の会社やレセコンメーカーなど開業資金で使うお金が多い会社です。
彼らの中には「開業してしまえば自分は関係ない」という人達も実際に多いため、彼らの話を鵜呑みにするのは危険です。
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