当時は人口の多い団塊の世代が50代後半に差し掛かり、欠損補綴の需要が増え、デンチャーやブリッジ以外の選択肢であるインプラントが脚光を浴びていたためです。
私は忘れもしませんが、当時の地下鉄の広告は2種類しかありませんでした。それは「インプラント(歯科医院)」と「借金過払い返済の救援(弁護士)」でした。
今では、この2つとも地下鉄の広告で見かけることはほとんどなくなりました。それはもちろん、広告をうっても効果が低いからです。
このように時代の流れとともに変化する需要は、歯科でも例外ではありません。これから歯科に求められるニーズについて各種統計から読み取れることをベースに推察してみました。
とりわけ20代、30代の若い歯科医師の方々にお読みいただきたい内容です。
Contents
日本国民の残存歯数の変化から今後、歯科医師に求められることが分かります
歯科疾患実態調査のホワイトペーパーに次のような「一人残存歯数の実態値の予測値」グラフがあります。

ここから読み取れることは、2015年時点での残存歯数20本以上の人達は平均70歳以下です。
しかし、これから(現在2019年)21年後の2040年の予測では、85歳以上の平均残存歯数は20本以上になっています。また過去を振り返ると、2005年時点で残存歯数20本以上は65歳以下でした。
つまり、2005年から35年で残存歯数20本以上の平均年齢が65歳以下から85歳以上に20歳以上も伸びることになります。
現在の65歳~70歳の口腔内が、20年後の85歳の口腔内になるというイメージです。
日本歯科医師会が中心になって長年、取り組んできた『8020運動』がついに実現する日が近づいてきました。
そして、日本の平均寿命もどんどん伸びていて現在、男性81歳、女性87歳(2019年厚生労働省調査)です。
「平均寿命が長くなり、残存歯数が85歳以上でも20本以上の時代がくる」から読み取れることは何でしょうか。それは、
・欠損補綴治療は少なくなる
・歯周病治療が増える
です。年齢を増しても残存歯数が多ければ、歯周病リスクは高まります。そのため歯周病治療とSPTⅡ(歯周病安定期治療)や予防歯科の需要は益々増えると言えます。
一方、小児のう蝕は下記のグラフ(学校保健統計調査)のようにどんどん減ってきており、12歳で2.5本以下となり、(とても喜ばしいことですが)むし歯治療は今後、より少なくなっていくはずです(但し、高齢者特有の根面カリエスの治療や予防は増えると考えられます)。

さらにこれからは歯周病と「全身健康や慢性疾患」の関連性が、一般の人たちに益々認知されはじめています。以上のことから【歯周病治療+予防】が今後20年、日本の歯科に最も求められるニーズだと考えられます。その次に訪問診療です。
しかし、これまでの歯科医院は「一般歯科、口腔外科、小児歯科など中心となる治療に加えて、歯周病治療もやっている」というスタイルの医院が大半です。
しかし、今後は「歯周病治療、予防歯科、口腔外科」というように歯周病治療中心で行っている歯科医院に人は集まるはずです。
このように時代の変化を読み解きながら、それに応える努力をしていくことが正しい努力です。
例えば、自分は「欠損補綴が好きなのでそれを極めたい」というのは自分中心の努力では、残念ながら努力の量と成果は比例しなくなります(もちろん、それを承知で行っていれば問題ないです)。
特に20代、30代の若い歯科医師の先生は、どこに自分の得意(専門)分野をフォーカスするか? を決める時、世の中に求められることを見極めながら判断しないと、専門医にしろ開業医にしろ大変、苦しくなります(多くの歯科医師の先生がここを考えずに専門分野を決めてしまっているのは残念でなりません)。
せっかく、吸収力の良い30代前半までにたくさんの勉強時間とお金を支払って努力しても、その技量を発揮する場が減ってくれば、虚しくなるでしょう。

例えば、プログラマーの業界でこれからはAI需要が高まるため、AIに適応したPython(パイソン)というプログラム開発需要は益々高まります。しかし、この時代にExcelのマクロ言語を一生懸命学びスキルアップしても、その技量を発揮する場はほとんどないことと同じです。
これから歯科医師としての技量を上げていく開業前の若い歯科医師の先生達へ
私は経営コンサルタントとして、これまで歯科業界に14年以上に渡って関わってきました。
そこで見てきた院長方は非常に努力家の先生ばかりでした。しかし、同じ努力家の先生といえども、成果(ここではご自身が養った技量を発揮できる量と定義します)は、10倍以上異なっていました。
特に開業医になるとそれは顕著になります。
「世の中に求められるものを読み取って技量を蓄積してきた先生」、「ご自身が単に極めたいと考えてきた技量を蓄積してきた先生」この差は歴然です。
技量を発揮する医療を継続していくのにお金は必要です。需要が少ない専門的医療だと
・新患が少ない
・広告費を使っても効果も少ない
・新患はますます減る
・お金がたまらない
・設備を買えない
・スタッフを雇えない、還元できない
・求人しても応募来ない
・新たな研修にも参加できない
といった悪循環から抜け出られなくなります。
このようになってしまうと「自分はお金儲けがしたいわけじゃないから、好きな医療に突き進めばいい」というレベルの話ではなくなります。
「お金儲けではなく医療の継続のため」お金に余裕のある状態をつくっておくことが必要なのです。
そして、開業前にこそ専門的な技量の蓄えをつくっておく必要があります。
なぜなら、開業後3年は医院を軌道に乗せることで精一杯で、学術に割ける時間がとれないためです。
開業後、患者さんが思うように集まらなくなったといって、スグに医療分野をシフトできないのも、このためです。
そこで、これから歯科界で活躍したい歯科医師の先生にとって、歯周病分野の技量を蓄積しておくことは大きな大きな財産になり得ます。

そのため私は「開業前に勤める医院」として以下の条件の医院さんを推奨しています。
2)歯周病治療の診断力・技術力向上できるカリキュラムがある医院
3)歯周病治療の設備が整っている医院
例えば、日本歯周病学会では認定医・専門医・指導医といった認定制度があり、この資格を持った院長のいる医院さんを選ぶのも1つの考え方です(参考までに「認定医、専門医、指導医」の都道府県別の一覧はこちらです)。
最後に正しい努力により「患者さんへの貢献を増やし、やりがいを蓄積しながら、また新たな分野に挑戦していく」という良い循環をつくって歯科医師キャリアを築いていける若い歯科医師の方々が増えることを願ってやみません。
関連記事
▶「採用・自立スタッフ育成・動画・数値管理」で予防型歯科医院をアップデートする!

▶「4バランス・医院収支・脱院長依存」など経営教材
